湊斗光の破壊行動の考察

装甲悪鬼村正は、私の最も好きなノベルゲームの内の一つである。

邪悪宣言 装甲悪鬼村正 オリジナルサウンドトラック

邪悪宣言 装甲悪鬼村正 オリジナルサウンドトラック

重厚なシナリオ、緻密に作りこまれた世界観と、芯があって生き生きとしたキャラクターが魅力だ。名作中の名作である。本記事には重大なネタバレが含まれるため、未プレイであるならば見ないことを強く勧める。

また、先日こちらの本を読んだ。

攻撃―悪の自然誌

攻撃―悪の自然誌

動物の攻撃衝動や本能としての攻撃について解説した本である。

村正をプレイして気になった点がある。それは、湊斗光の破壊行動である。湊斗光は、社会規範が許さない願いを持ち続けていた。その願いが叶うことなく命尽き果てるというその時、力を手に入れた湊斗光は、規範を許さない社会(世界そのもの)を破壊して願いを叶えようとする。また、湊斗光は、世界を守るためならば規範を破るという行為すら許さなかった。プレイしていた時は気にも留めなかったし、湊斗光という人物ならばありえると思っていた。また、そのための動機もハッキリしている。しかし、今となっては突飛に感じる。もちろん、シナリオにケチをつけているわけではない。

本記事では、湊斗光の攻撃衝動について、上記の本を参考にして掘り下げてみる。

攻撃とは

そもそも攻撃とは、種を保つための本能である。外敵から身を守ることは言うまでもないが、同種に対する攻撃においてもだ。雄の縄張り争いなどで互いに攻撃しあう際、勝者は縄張りを維持できる*1。縄張りは子育ての場になる。縄張りのない雄は雌とつがえないこともある。より強い個体が遺伝子を残すことになる。それは、淘汰から逃げることを助ける。

Hannibal Poenaru - Nasty cat ! (by-sa).jpg
By Hannibal Poenaru from near Paris, France - flickr.com, CC 表示-継承 2.0, Link

また、本能的な行動様式は、抑制によってその行動様式を引き起こすのに必要な刺激の限界値が下がる。鳥に至っては、剥製であったり何もない場所へも求愛行動をするようになる。攻撃も本能である。抑制するとほんの小さな刺激でも攻撃衝動が引き起こされる。

ジュズカゲバトの雄から雌を遠ざける時間を、段階を追って順に長くしていき、各段階ごとに、雄の求愛行動を引き起こすにたりる対象を、実験的に調べたのである。(中略)独房に入れられてから数週間後には、ついに自分が入っている箱型のかごの、何もないすみへ向かって求愛行動を起こすまでになった。

攻撃―悪の自然誌

攻撃本能は、社会学者や心理学者によって一定の外的条件に対する反応だと考えられていた。であれば、その外的条件とやらを取り除いてやれば攻撃はなくなる。しかし、そうはならない。攻撃とは、反応ではなく自発的なものなのだ。また、フロイトは攻撃の自立性を認めた。攻撃が起こりやすくする原因として、愛の喪失を挙げている。

愛情を与えられず、攻撃本能を抑制された人間は簡単に攻撃衝動が引き起こされるということだ。

湊斗光の破壊行動

湊斗光について詳しく見てみよう。

宿星騎において、床に臥す前の彼女には暴力的な一面が見られた。

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装甲悪鬼村正」より

恐ろしいナマモノと言われるほどである。武芸に通じていた彼女はよく力で解決していたようである。これは、日常的に攻撃を行い、発散していたと見える。あくまでも、ラノベにありがちな暴力ヒロイン程度のレベルであった。破壊行動と言える程の事はしていない。頻繁にガス抜きをし、抑制されてはいなかった。

しかし、病で床に伏してからは、ほとんど寝たきりである。本来発散されるべき攻撃衝動は溜まっていく。溜まり、行き場を失った攻撃衝動によって、自らを傷つけるのである。攻撃とは本能であり、どこかで発散しなければならないのだ。

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装甲悪鬼村正」より

その衝動も、自らも死に至らしめてしまうため、景明に抑えられる。 抑制され、攻撃衝動が溜まり、限界値が下がっている状態である。そこで、二世村正に、「なら世界を壊せばいい」と言われ、この刺激によって攻撃衝動が一気に解放された。また、彼女は愛されていないと感じていた。愛が喪失していたのだ。愛の喪失により攻撃が起こりやすい状態で、攻撃衝動という本能の抑制により魔王を育てていたとも言える。

愛の喪失と、攻撃衝動の抑圧。ここに攻撃の準備は完了した。

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装甲悪鬼村正」より

おわりに

攻撃とは何なのかを知ることにより、「愛の喪失」と「抑制により刺激の限界値が下がる」という攻撃衝動に関する原理が、彼女にも働いていたと分かった。死ぬ寸前の少女の最後の儚い「銀星号」という輝きも、起こるべくして起こったものだったのだ。本来であれば痛みにのたうちまわり、その衝撃で死ぬ鉱毒病だが、景明の懸命の介護により、それが魔王の育成となっていたのが何とも皮肉である。

「Raven Steel」- 装甲悪鬼村正 邪念編 -

「Raven Steel」- 装甲悪鬼村正 邪念編 -

 

 

*1:大抵は威嚇によって力関係を示すだろうが