アドラー心理学で解説する「大図書館の羊飼い」
最近、「大図書館の羊飼い」をプレイした。
貼り付けた商品はスピンオフだが、こちらもプレイしたい。
AUGUST作品に触れるのは「穢翼のユースティア」「千の刃濤、桃花染の皇姫」に続いて3作目である。また、AUGUST作品としての「大図書館の羊飼い」のリリース時期は「穢翼のユースティア」の次で「千の刃濤、桃花染の皇姫」の前である*1。
また、以前こちらの本を読んだ。
アドラー心理学関連の本で最も売れた本ではないだろうか。こちらの本でアドラー心理学に初めて触れた人も多いはず。私もその内の一人である。
本記事では、「大図書館の羊飼い」のストーリーについて、アドラー心理学の観点から解説していく。しかし、私が アドラー心理学について読んだことがあるのはこの本のみである。したがって、正確には、こちらの本を参考にして解説することになる。また、全てのヒロインを解説するのは大変長くなる。本記事では、後輩ヒロインの「鈴木佳奈」と主人公の選択について解説する。また、本記事には鈴木佳奈√の重大なネタバレが含まれる。未プレイの方はブラウザバックを推奨する。
すべての悩みは「対人関係の悩み」である
鈴木佳奈は、汐美学園に入る前の女子校での出来事がトラウマになり、人間関係において自らをさらけ出すことができなくなっていた。誰からも嫌われないようにいつも仮面を被り、偽りの自分で他人と接する。他人が自分にどんなキャラを求めているのかを考え、そのキャラを演じる。人に嫌われないように自分を作り上げる。汐美学園に入って人間関係がリセットされ、ここではありのままの自分でいようと思っていたが、結局同じことの繰り返しであった。そして、図書部に入り、ありのままの自分を受け入れてくれるであろう優しい仲間に囲まれた。しかし、やはり嫌われないための鎧を着てしまう。癖として身体に染みついているのだ。図書部でも素の自分でいられなかった。この問題を解決していくのは鈴木佳奈の個別ルートのテーマである。
鈴木佳奈の個別ルートは、特に対人関係の悩みが描かれている。アドラー心理学において、すべての悩みは対人関係の悩みであると断言されている。もし、広大な宇宙空間にただ一人存在するならば、人間は悩みから解放される。孤独さえも、他者がいるからこそ生じる悩みなのだ。
嫌われる勇気
対人関係の悩みを一気に解消する方法は、「嫌われる勇気」を持つことである。嫌われても構わないから傍若無人に、好き勝手に振る舞い、嫌われようと構わないという意味ではない。端的に表すなら、「嫌われたくはないが、嫌われても構わない」である。その勇気を持って一歩踏み出す。そして、ありのままの自分を受け入れてもらう。それが重要なのである。その結果、嫌う嫌わないは他者の課題である。自らが悩む必要などない。
鈴木佳奈は、御園千莉から、図書部の皆は受け入れてくれると励まされる。すでに受け入れてくれる仲間がいる。鈴木佳奈自身が変わることができればいい。変わるのはいつだって自分自身である。
他者の評価を気にかけず、他者から嫌われることを怖れず、承認されないかもしれないというコストを支払わないかぎり、自分の生き方を貫くことはできない。
主人公はなぜ羊飼いにならなかったのか
羊飼いとは、自らの本を消して人々の記憶から消え、人類の奉仕者として永遠の時を生きる存在である。人の記憶からすぐ消えるために感謝されず、人々のためとなる行いをしていく。誰からも感謝されないという点において、一般的な感覚からすると不幸に思えるかもしれない。
しかし、承認欲求を否定しているアドラー心理学的には、むしろ幸福の形に適しているかもしれない。誰かから感謝されたり、見返りだったりのために行うわけではない。誰かのために何かを行う貢献感が得られる羊飼いは、むしろ理想だともいえる。そもそも主人公の目的は、魔法の図書館にたどり着くことであった。長年の目的を達成できる羊飼いになぜならなかったのか?それは羊飼いには共同体感覚が無いからである。羊飼いになれば、貢献感は得られるが、自分は世界からいなくなったも同然である。世界のどこにも居場所が無いように思える。一方、図書部はどうだろうか。学園を楽しくするために仲間と活動をする。その活動とは人のためであり、これこそ貢献である。図書部とは、自分を必要としてくれる心地の良い居場所であり、共同体である。また、かけがえのない仲間たちと出会った汐美学園も同時に共同体である。
仲間たち——つまり共同体——のために貢献しようと思えるようになるでしょう。このように、他者を仲間だと見なし、そこに「自分の居場所がある」と感じられることを、共同体感覚といいます。
対人関係のゴールは「共同体感覚」であると言われているアドラー心理学において、羊飼いは50点である。貢献感を得ることはできるが居場所が無い。一方、共同体のために貢献を行い、居場所もある図書部は100点である。図書部こそ対人関係のゴールに相応しい。
ルート終盤、羊飼いになろうとしていたところに、鈴木佳奈が現れる。そこで、皆のために消えるなど、自己満足である。皆のところに戻ろうと言われ、羊飼いになることを辞める。主人公にとっても、本を読んで心を落ち着かせる必要がなくなった。本で人の考えていることを知る必要もなくなった。自分の居場所のある共同体を認識した。
おわりに
鈴木佳奈の個別ルートのみ解説したが、他のヒロインも程度や種類は違えど元をたどれば対人関係の悩みを抱えている。
大図書館の羊飼いは、アニメ化がされている。アニメでは、結局羊飼いになるのだが、ゲームではどのルートにおいても羊飼いにならなかった。羊飼いは主人公の目標であったにも関わらず、羊飼いにならなかった点が不自然だと感じたので考察を行った。羊飼いの貢献感や共同体感覚が引っかかったのでアドラー心理学を用いた。うまくまとまってくれてよかった。
ちなみに、一番好きなヒロインは白崎つぐみである。
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*1:正確には、千桃の前に大図書館のスピンオフ作品が2つリリースされている
ユージオは正義を「犯した」
ソードアート・オンラインの3期が現在放送中である。原作は読了したため、改変を楽しみながらアニメを見ている。
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ちなみに、3期は4クール放送される。スケール感の分からない方のために、アニメと原作のボリュームを比較してみた。納得の4クールである。なお、現在21巻が出ているが、新章なため含めていない。
本題に入る。
現在、SAO3期は10話まで放送されている。
今回題材とするのは、9話冒頭の「ユージオとウンベールの立ち合い」から始まった一連の事件である*1。この事件において、ユージオは正義を「犯した」のである。
正義を「犯す」という耳慣れない言葉について、2009年にニトロプラスから発売された「装甲悪鬼村正」より解説していく。
正義を「犯す」とは
正義を「犯す」という言葉遣いについて、装甲悪鬼村正のサブヒロインである綾弥一条のルートの英雄編において登場した。綾弥一条は、正義感が強く、六波羅を恨んでいる。六波羅に正義の鉄槌を下したいと思っているが、彼女は至って普通の女学生である。武芸には通じているが、劔冑には敵わない。しかし、物語が進み、正義を体現したような劔冑である正宗を手に入れると実際に力を行使していく。装甲の口上から分かる通り、悪を滅するための劔冑である。この正宗と共に正義を執行する。
一条はルート終盤、四公方の内の一人である遊佐童心を殺す。正義の名の下に、悪を始末した。遊佐童心は、自らが悪であり、正義によって始末されるべきだと自覚していた。しかし、その正義を打ち払うことで自らの生き様を全うできるとも考えており、素直に首を差し出さなかった。絶対的な悪を、絶対的な正義が始末した。しかし、後日に遊佐童心の小姓(側付き)が現れる。彼女の姉は童心の子を身ごもっていたが、童心が殺されたショックで発狂し、子と共に亡くなってしまう。生まれる前の赤子は、一条の行った正義により、悪ではないのに亡くなってしまった。その復讐で一条の前に現れたという。童心もまた、彼のことを正義だと称える者がおり、助けられた者がいた。正義とは二面性であり、見方によれば悪にもなり得る。一条は正義を犯したと知る。自らが悪に正義を執行しようとしても、その悪もまた自らの正義に従っているのだ。
正義とは、必ずしも正しい結果のみをもたらすとは限らない。正義により、良からぬ結果も招いてしまうことを正義を犯すと表現している。もう一つ、一条が正義を犯したシーンを紹介しよう。
両親を殺された子供が、進駐軍の劔冑に対して、勇敢にも石を投げて戦ってしまう。当然、子供は殺される。その子供とは、前に一条が正義を説いて聞かせた子供だったのだ。ただの女学生である一条が、勇敢に戦っていると聞いてその正義に感化されたのだ。
一条の正義は眩しく、力を持たない者に希望を与えてしまう。もちろん、正義を行うのが悪いことと言っているのではない。正義によって、好まざる結果を招くことがあると分かったと思う。
ユージオが犯した正義
本題に入る。
9話冒頭、ユージオはウンベールとの立ち合いで引き分ける。ウンベールは次席、ユージオは序列5位である。本来であれば、ウンベールが勝つところだが、引き分けるという下克上が起こる。自尊心ドカ盛りのウンベールは、この下克上が許せない。原作のセリフを引用するが、アニメでも同様のセリフを漏らしている。
「ら、ライオス殿!オレ、いや私が、このような田舎剣士と引き分けるなど......!」
この立ち合いを機にウンベールは、元から厳しかったであろう側付きのフレニーカへの指導がエスカレートする。女子生徒としては耐え難い内容、と表現されている。このことをティーゼから相談されたユージオは、ライオスとウンベールに抗議をしに行く。改善が見られないようなら教官へ調査を依頼することも止む無し。という内容である。
ウンベールに抗議をしに行ったということを、ユージオはティーゼに報告する。また、元はと言えば立ち合いが原因であるため、フレニーカに謝りたいとも言うユージオ。正しい。頼れる先輩。強い先輩....。
完全にメロメロである。
整理しよう。
- 次席のウンベールに剣技で引き分ける(下克上)→力を示す
- 逸脱とは言わないまでも、良からぬ行いを行うウンベールに対し抗議→正義の執行
今回の件に関しては、ウンベール側に正義は無い。挑発と腹いせである。しかし、ユージオは敵わないはずの序列上位に剣技で立ち向かい、行いを改めるよう抗議もした。貴族出身であるウンベールに、ユージオが行った一連の「正義」は、ティーゼに眩しく映ったに違いない。
「......私も、私も強くなります。ユージオ先輩のように......正しいこと、言わなきゃいけないことをきちんと言えるくらい強く」
「私も、私も強くなります。正しいこと、言わなきゃいけないことをきちんと言えるくらい強く。ユージオ先輩のように」(ソードアート・オンライン アリシゼーション、9話より)アニメでは、ユージオの影響であることが強調されている。ユージオの行いは完全な正義だ。何も間違いはない。しかし、眩しすぎた。元々、挑発に乗ったり気にしたりするなという方針がキリトとユージオの間にあったはず。しかし、剣に込める想いを知るために、立ち合いを受けてしまった。正しく真っ直ぐな正義にティーゼは感化されてしまい、力にそぐわない勇敢さを身に着けてしまった。その結果、上級生で、力量も、貴族の等級も敵わないライオスとウンベールに立ち向かってしまう。
おわりに
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*1:8話終盤から始まっていたようにも思えるが...。
加藤恵がフラットなのは進化していたからである
「冴えない彼女の育てかた」は私が好きなラノベ作品の内の一つである。
- 作者: 丸戸史明,深崎暮人
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アニメは2期まで放送され、現在は劇場版が製作中である。人気作品と言っていいだろう。原作は13巻で完結している。
本記事には、ネタバレが含まれる。この記事を読んで気になった方は作品に触れてみてほしい。また、作品に触れてから本記事を読むとより理解できるだろう。
加藤恵とは
「冴えない彼女の育てかた」(以下冴えカノ)はジャンルで言うとラブコメディに分類される。詳しい説明はこちらを見ていただきたい。
作品の概要と大体のストーリーは掴めたと思う。
本記事のタイトルにある加藤恵とはメインヒロインである。主人公と彼女が結ばれるのは決定事項である。本記事では彼女について掘り下げていく。その前に、押さえておきたいポイントがある。それは彼女がどのようなヒロイン的特徴を持っているかである。サブヒロインの中でも主要キャラである澤村・スペンサー・英梨々と霞ヶ丘詩羽のヒロイン的特徴と比べる。
なかなかの盛り具合である。
- 黒髪
- ロング
- 先輩
- 黒スト
- 巨乳
こちらもなかなか。
登場回数も多く、サブヒロインの中でも主要キャラである澤村・スペンサー・英梨々と霞ヶ丘詩羽のヒロイン的特徴を挙げた。外見だけを見ても定番である。その上、幼馴染、先輩、などの魅力的かつ定番の内面的なヒロイン的特徴もある。強い。そして、これらを押しのけるメインヒロインである加藤恵のヒロイン的特徴を挙げる。
- ショートボブ
以上だ。
ヒロイン的どころか強いて言うならくらいの特徴と言えばこれぐらいではないだろうか。フラット(感情表現の抑揚が少ない)という重要かつ彼女独特の特徴も持っているが、ヒロイン的特徴ではないため除外した。こちらについては後程説明をする。また、メインヒロインと言えば、特に例を挙げられるわけでなくもロングヘアーが浮かぶ人が多いのではないだろうか。
こちらの本には、イラスト担当である深崎暮人氏へのインタビューが掲載されている。加藤恵のキャラクターデザインについての質問でこう答えている。
冴えない彼女の育てかた Memorial (ファンタジア文庫)
- 作者: 丸戸史明,深崎暮人,ファンタジア文庫編集部
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恵はいろいろなキャラクター的な記号をそぎ落とした結果、それでもかわいく見えるようにデザインしたつもりです。(中略)髪型といえば黒髪ロングのヒロインって正統派のイメージじゃないですか。だから黒髪ロングの恵というのも頭の隅にあって、
フラットなメインヒロイン
By Trashbag - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, Link
彼女は感情の抑揚が少ないことが強調されている。返答も素っ気なく、絶対無表情である。とにかく、変化が少ない。何か言われてキーキー怒るわけでもない。アニメを見てみると、表情から何を考えているのか分かりにくい。平坦で、一定なのだ。あくまでも、抑揚が少ないのであって、感情が死んでいるわけではない。「加藤、改めてお願いだ.....」「あ~、うん」そして加藤は安定のフラットな表情で俺の言葉を待つ。「理不尽かもしれない。ウザイかもしれない。馬鹿じゃないのこいつとか思ってるかもしれない」「えっと、ごめん。それ『かもしれない』いらない……」
排卵の隠蔽
- 作者: ジャレドダイアモンド,Jared Diamond,長谷川寿一
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By André Karwath aka Aka - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 2.5, Link
このように、排卵時期を示すことは生き残る上で重要な役割を果たす。しかし、我々人間は隠蔽されている。排卵時期の隠蔽に、どのようなメリットがあったのだろうか。
まず、我々の祖先は現在のような一夫一妻ではなく、ハーレムの形態を取っていた。そして、排卵時期を示すシグナルはわずかなものだった。ここがスタートである。そこから、以下のようなメリットによって排卵時期を示すシグナルが隠蔽されたと考えられた。
①父性の攪乱
雄は、他の雄の子供を育てない。わざわざライバルの遺伝子に対して自らのエネルギーを使うようなことはしない。例としてゴリラが挙げられる。ゴリラはハーレムの形態を取っている。しかし、ハーレムが他の雄に乗っ取られることがある。その際、雌が育てていた前の雄との子供は、乗っ取った雄によって殺される。そして、自らの遺伝子を残すために、乗っ取ったハーレムの雌を受精させる。雄はいいかもしれないが、雌にとってはこの損失は大きい。それまでに育ててきた時間やエネルギーが無駄になるからだ。
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しかし、ここで雌の排卵時期が隠蔽されていたらどうだろう。雌が多くの雄と交尾することによって、生まれてきた子供の本当の父親が分からなくなる。どの雄にとってもその子供は自分の子供かもしれないからだ。そのため、子を殺すような真似はできなくなる。父性を攪乱することにより、雌は子殺しを防ぐことができる。
②父親をとどまらせる
今度は人間で例えてみる。もし、女性の排卵時期が分かっていたらどうなるだろうか。妻が排卵時期の時だけ、夫は妻とセックスを行う。それ以外の日は、セックスをする気にはならないだろう。外へ行き、排卵時期の女を孕ませるようになる。また、不貞の心配もない。なぜなら、妻は排卵時期でないことが分かっているからだ。こうして、父親が家にも帰らず、よその女を孕ませることに力を入れていては、母親一人で子供を育てなければならない。それは大変だ。子供を育てることが難しくなってしまう。
一方、排卵時期が隠蔽されていたらどうだろう。夫は排卵時期がいつなのかわからないので妻とのセックスに勤しむようになる。また、排卵時期かもしれない妻を家に放っておいては、よその男に孕ませられるかもしれない。
これは、ハーレム、もしくは乱婚の形態を取っていた祖先も同じである。雄が子供に対して父性を確信していれば、父親をとどまらせることにより、確実に子供を育てることができる。
排卵時期を隠蔽するメリットを2つ挙げた。我々の祖先はどちらかのメリットによって排卵時期の隠蔽を選んだ。ここで、疑問が生じる。この2つのメリットは対極にあるのだ。我々の祖先はどちらを選んだのか。①の場合、子殺しが一般的でない現代社会においては成り立たないだろう。一夫一妻の形態がほとんどであるし、多くの父親が自分の子供に対して父性を確信しているだろう。遺伝子検査まであるのだ。また②において、ずっと夫をだまし続けるのは難しいだろう。特に、まだ祖先がシグナルを隠蔽していなかった時期ともなればだ。
これらのメリットに対して、祖先は直接二択の選択をしたわけではない。配偶の形態によって切り替わったのだ。
まず、先に述べたように、我々の祖先はハーレムの形態を取っており、効率のよいセックスのためにわずかな排卵シグナルを出していた。ここで、①父性の攪乱のメリットにより、排卵シグナルを隠蔽するようになる。排卵シグナルの隠蔽が浸透したところで、配偶システムがハーレムから一夫一妻へ切り替わる。その際の隠蔽するメリットは②父親をとどまらせるためである。このように、2つのステップを踏んで排卵シグナルの隠蔽は浸透していき、現代の人間の女性にも受け継がれている。つまり、排卵の隠蔽をしなかった者は自らの遺伝子を残すことができなかった。
加藤恵は進化していた
我々の祖先は、排卵を隠蔽するよう進化してきたことを述べた。ここで話を戻す。
加藤恵の重要かつ最大の特徴であるフラットとは、排卵シグナルの隠蔽を示していることに他ならない。自らの状態を外に出さず、常に一定。フラット。ちなみに、冴えカノ世界において、加藤恵以外の女性は排卵時期になるとシグナルを出すという意味ではない。あくまでも、彼女が進化した存在であることを、排卵の隠蔽とフラット(自らの状態をあまり表に出さない)を絡めて示しているということである。
サブヒロインたちは、主人公に赤面させられたり、感情的になり自らをさらけ出したりする場面が見られる。自らの状態を隠蔽できているとは言い難い。これでは生き残ることはできない。我々の祖先は隠蔽することによって淘汰から逃れ、自らの遺伝子を伝えていった。隠蔽できない者は淘汰されてきたのだ。それがオタク主人公の争奪戦であっても。加藤恵は自らの状態を隠蔽(フラット)している。それは淘汰から逃れるための特徴を備えているということである。だから、この争奪戦を生き残ることができるということなのだ。
進化とは、性淘汰、自然淘汰から逃れる選択を行うことである。また、進化には果てしない時間がかかる。排卵シグナルの進化のスタートだった我々の祖先は、およそ900万年前に生きていた。加藤恵は他のヒロインに比べ900万年分進化していると言ってもいい。この圧倒的アドバンテージがあったからこそ、冴えないメインヒロインである加藤恵は、他のヒロインを出し抜くことができたのだ。
なにをやかましいことを長々と言っているのだこのオタクは。と思う方のために、加藤恵が進化していることがとてもよく分かるシーンをお見せしよう。
主人公宅でカレーを作り、味がお好みか聞いているシーンである。このような行為は、友達同士で行うことはまずないだろう。では、恋人同士か?いや、違う。夫婦だ。夫婦とは、恋人よりも更に進んだ関係である。サブヒロイン達は、幼馴染や先輩後輩、サークル仲間という関係止まりであった。しかし、加藤恵のみこのような夫婦にも見える関係を築いている。
冴えカノは一見するとハーレムものに見える。物語序盤、加藤恵の優位はそこまでであった。これは祖先が最初に排卵の隠蔽へと一歩踏み出した状態である。主人公は加藤恵に一目惚れしているものの、サブヒロインの勢いがあり、まだハーレム成分が残っている。しかし、物語中盤になると彼女らは淘汰されてしまう。そして、加藤恵のみこのような一夫一妻とも見える関係になることができた。配偶システムがハーレムから一夫一妻へ切り替わったことを示している。
おわりに
なぜ冴えない加藤恵が他の魅力的なサブヒロインを出し抜くことができたのか、排卵の隠蔽の歴史から考察した。長くなってしまったが、加藤恵がなぜ優位に立てたのかを確認できた。今は劇場版の公開を待つばかりである。
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