アイカツ!世界のアイドル達はなぜカラフルなのか

昨年末頃から、アイカツ!を見始めた。

アイカツ!1stシーズン Blu-ray BOX1

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私がこれまでに触れたアイドル作品といえば、デレマスとラブライブ!くらいだ。特別好きなジャンルでもない。しかし、アイカツ!にはハマった。初めの方こそステージシーンのぎこちないCGに困惑していたが、話が進むにつれてクオリティも上がり、気付けば胸を躍らせながらステージを見ていた。アイドルとして成長した星宮いちごが、ステージ対決において本当にどちらが勝つか分からないシーンなどはハラハラしながら見ていた。全体として、成長を描く物語であるが、それだけではない。回にもよるが、アニメ1話という枠の中にも、勇気、挑戦、挫折、努力、成長、これらが詰まっていることがある。圧縮ではなく、丁寧に描かれている。しかも、これらは1人の主人公のみで描かれるものではない。オーディションなどで彼女らのライバルとして対決したアイドルは、次々に主要キャラとしてその後の話にも登場する。それは、アイカツ!26-50話のOPである「ダイヤモンドハッピー」の歌詞の一節からも分かる。

昨日の敵さえ未来の仲間さ

ハッピーつかむ生き方さ(Go go Let's go!)

周囲の人に支えられ、仲間や好敵手と共に歩んでいくのだ。ライバルとして出会い、互いの実力を認め合い、互いに高めあい、仲間として成長する姿は美しいの一言である。長々と述べたが、端的に言うと「世界の美しさ」を教えてくれる作品である。

(2019/6/8追記)

アイカツ!アイカツスターズ!を全話見終わった。これら2作品を通した感想を書いた。

nmzfish.hatenablog.com

 

しかし、気になった点が1つある。それはアイカツ!世界のアイドル達がカラフルな点である。こちらの画像を見てほしい。これは主要キャラたちが集まっているシーンである。様々な色の髪色によってカラフルな印象を受ける。

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アイカツ!」、52話より

アニメ作品において、髪や目の色は重要なキャラクター記号である。なお、彼女たちのカラフルさについて、現実世界において云々などという無粋な話をしたいわけではない。しかし、なぜここまでカラフルなのか。その理由を解説していく。

攻撃

先日、こちらの本を読んだ。

攻撃―悪の自然誌

攻撃―悪の自然誌

 

攻撃衝動とはなんなのか。なぜ同種に対してまで攻撃を行うのかについて書かれた本である。主に野生動物を対象として得られた行動生理学の本である。こちらの本を参考にしてアイカツ!世界のアイドル達がなぜカラフルなのかについて解説していく。

サンゴ礁には、様々な魚が生息している。水族館のサンゴ礁コーナーなどを想像してみてほしい。そこにはカラフルな魚たちがいたのではないだろうか。

Oriental butterflyfish.jpg
By R.horibe - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, Link

これらの色鮮やかな魚たちには3種類の特徴がある。それは定住性独り暮らし攻撃性が強いことである。

彼らはある一定の縄張りを持ち、そこで独りで生活する*1。縄張り内に同種の魚が入ってきた場合、激しい戦いを繰り広げる。いかに攻撃性が強い種類でも、攻撃は同種にのみ向けられるのだ。自然海の中では大抵、弱者が逃げれば戦いは終わる。しかし、水槽内であれば逃げ場がないため弱者は殺される。このような同種に対する激しい攻撃性は一見、種の破滅をもたらすように思える。しかし、この攻撃性には種を保つ働きがあるのだ。もし、縄張りの侵入を寛容に許すならば、たちまち周囲の餌が枯渇してしまう。同じ種とは食べる餌もまた同じだからだ。また、複数で仲良く捕食者に捉えられてしまう可能性もあるだろう。それを防ぐためにも彼らは目立つ必要があった。他種と見分けやすい目立つ色合いになれば、同種の認識が容易になる。不用意な戦いを避けるためにも、縄張りはある一定の距離を空けて存在することになる。つまり、己の種を守るために各々が目立つ色になったのだ。

この危険を封じるいちばんかんたんな手だては、同じ種の動物は互いに相手を寄せつけないというやり方だ。これこそ、あからさまな言い方だが、種内攻撃の種を保つ働きのうちもっとも重要なものなのである。

攻撃―悪の自然誌

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By Toby Hudson - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, Link

魚たちにとって、サンゴ礁ほど多種多様な食物がある環境はないだろう。しかし、あらゆる種の魚たちが寄ってたかって同じものばかり食べていては簡単に枯渇してしまう。だから、例えば、プランクトンのみを食べる、貝を食べる、ように何かに特化した職業を持たなければならない。

人間の職業生活に例をとれば、いなかの一定の地域の中に医師とか商人とか自転車屋がたくさんいて、それぞれにみな繁盛することを願うなら、これらの職業の各代表は、同業者ができるだけ遠く離れて居を定めるように、うまく調整をはかるだろう。

攻撃―悪の自然誌 

サンゴ礁の魚たちとアイカツ!世界のアイドルとの共通点

サンゴ礁の魚たちを例にとって、なぜカラフルなのかを述べた。それは種を保つ働きであった。しかし、カラフルな魚たちが種を保つために攻撃性が強いからと言って、容易にアイカツ!に当てはめてはいけない。なぜなら、アイドル達は攻撃性が強いと述べることになってしまうからだ。落ち着いてゆっくり話をアイカツ!に戻そう。

まず定住性についてだが、これはアイドル達が持っているメインの仕事に相当する。アイカツ!の1~101話における主要キャラである星宮いちご、霧矢あおい、紫吹蘭を例にとると、バラエティ、女優、モデルがメインの仕事であろう。もちろん、ステージはするし他の仕事をすることもある。だが、メインの仕事と言えばこれらであろう。ほとんどのアイドルは自らに合った仕事のジャンルを決める。物語の中で路線変更はない。定住性があると言っていい。2ndシーズンの主要キャラである大空あかりは、朝のお天気コーナーの担当を持っている。

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アイカツ!」、117話より

次に、一人暮らしである。これに関しては少々複雑だ。サンゴ礁の魚たちにおいては、縄張りを持って同種を寄せ付けない結果、一人暮らしに見える。というのが真実である。アイカツ!世界においては、仕事の枠に相当するだろう。何らかの仕事のためのオーディションがあるのだが、枠は大抵一つである。また、上記の3人においても、各々のメインの仕事は一人で行っている*2

最後に、攻撃性である。彼女たちに好戦的な性質は全く見受けられない。では何が攻撃性に該当するか。それはステージである。

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アイカツ!」、53話より

1つの仕事枠に多数の応募があった場合どうするか。そう、ステージによってアイドルとしての優劣を決めるのだ。入学試験、モデルのオーディション、あらゆる物事がステージで解決される。この様子を客観的に見れば、彼女たちは好戦的であると受け取れるだろう。ただし、彼女たち自身の攻撃性というよりは、アイカツ!世界の特性だろう。顕著な例として、スターライトクイーンが挙げられる。これは、中等部において最も優れたアイドルを決めるイベントである。ファン投票や、仕事量などを客観的に見て話し合いで決めてもいいだろう。しかし、彼女らはステージによって優劣をつける*3

アイカツ!世界のアイドル達はなぜカラフルなのか

アイカツ!世界のアイドル達も、サンゴ礁の魚たちがカラフルである理由と同様の特徴を持っていると分かった。アイカツ!世界において、アイドルの活動の幅は広い。モデル、ドラマ、バラエティ、ブランドのミューズ*4、CM、商品宣伝、など多岐に渡る。これは、サンゴ礁が多種多様な食物を供給するのと同じである。もし、多くのアイドル達がモデルを自らのメインの仕事としようとしたらどうだろう。たちまちモデルの仕事は枯渇してしまう。アイドル達も、自らのアイカツの方向性を定めなければならない。また、アイドル達は、ある一定の距離を空けて同業者*5アイカツをしていかなければならない。サンゴ礁の魚たちにおいては、同種を判別する手段は色合いのみであった。同じ色の魚を見かけたらそれは同種であり、距離を取らなければならない。しかし、アイドル達は、同業者が必ずしも同様の姿形色合いをしているとは限らない。画像の彼女らのように、「」のテイストとしてキャラが被ってしまうと、文字通りの戦闘が発生してしまう*6

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アイカツ!」、119話より

では、色は重要なファクターではないのか。サンゴ礁の魚たちほど色には頼らないだろう。ここで、霧矢あおいを例にとる。霧矢あおいのメインの仕事は女優である。イケナイ刑事という刑事モノを長らくやっている設定がある。もし、未熟なアイドルがイケナイ刑事の仕事をしたいと思ったとする。現在やっている者が目立たないと、容易にイケナイ刑事を自らのアイカツの方向性として定めてしまう可能性がある。そうすると、すでに枠が埋まっているため、仕事が無くなる、もしくはステージ対決が発生してしまう。色が種類や職種を決めるサンゴ礁の魚たちと違って、アイカツ!世界におけるアイドル達の色とは、単に目立たせる機能のみを持っていると考えられる。それも、他のアイドルとは遠くて目立つ色でなければならない。つまり、アイカツという多様な仕事が供給される世界においても、自らの仕事を守るために同業者と一定の距離を空けるため目立つ必要があるのだ。

一方、筆者が他に知っているアイドル作品であるデレマスの登場人物たちを見てみよう。

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TVアニメ「アイドルマスターシンデレラガールズ」オフィシャルサイトより

デレマス世界の彼女達の仕事は、典型的なアイドルとほぼ同様である。アイカツほどの仕事の幅はない。そのため、なんらかの方向性を決める定住という性質は薄い。また、ユニットでの活動が主である。ステージ対決などもない。アイドルという一括りなので縄張りもないし、同業者との接近も大した問題ではない。彼女達がアイカツ!世界のアイドル達に比べてカラフルでないのは、環境が違うから必要なかったのだ。

おわりに

サンゴ礁のカラフルな魚たちとアイカツ!世界のアイドル達との共通点を述べた。おおよそ同様の理由からカラフルであることを解説した。サンゴ礁の魚たちは色が種類を決めるが、アイカツ!世界のアイドル達は色が仕事を決めるわけではないので完全に同様の構造ではない。本記事を執筆時、dアニメにて122話まで視聴し、劇場版は未視聴である。女児向けというイメージがあり、アイドルものが特別好きなジャンルでもなかったため、勧められてもイマイチ見る気になれなかった。しかし、思い切って見てみたらハマった。

劇場版アイカツ! 豪華版 [Blu-ray]

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*1:永続的な結婚状態の2匹を除いて

*2:彼女らは3人のユニットを組んでいるので一概には言えない

*3:もちろん、ステージはアイドルの実力が最も現れる場であろう

*4:そのブランドを代表するモデル

*5:アイカツにおける同業者とは、自らの方向性と同じアイカツをする者である

*6:これは稽古であり、その後ステージで対決をするが