「PSYCHO-PASS サイコパス」を120%楽しむためのSF小説を紹介する

現在、「PSYCHO-PASS サイコパス」3期が放送されている。

 以前、「PSYCHO-PASS サイコパス」15話の会話シーンについて解説した。

nmzfish.hatenablog.com

すばらしい新世界との関連性を書いた記事もある。

nmzfish.hatenablog.com

PSYCHO-PASS サイコパス」は現在3期が放送されており、劇場版も制作された。最近のアニメ*1では、人気作品である。しかし、「PSYCHO-PASS サイコパス」は一見すると現代のアニメ作品であるが、実は、多くの名作SF小説から影響を受けている。それらのSF小説の内容を踏まえた上で「PSYCHO-PASS サイコパス」を視聴すると、120%楽しめる。そこで、それらのSF小説をいくつか紹介する。

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))

 

まず最初に、フィリップ・K・ディック作の「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

1期15話で槙島が「(この街は)昔読んだ小説のパロディ」と称した小説がまさに「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」である。まずこれを紹介したのは、内容が「PSYCHO-PASS サイコパス」と似ていることはもちろん、名作だからである。

試しに、Amazonで「の夢を見るか」で検索をかけた。結果の上位12個をスクショしたのが以下の画像である。赤枠で囲ったタイトルは、「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」のオマージュである。このことからも、影響度の大きさが分かる。

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「の夢を見るか」での検索結果上位

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」は、人間と見分けがつかないほど精巧なアンドロイドが人間のために働かされており、賞金稼ぎであるリック・デッカードが、逃げ出した8体のアンドロイドを破壊していく物語である。上記で述べた通り、アンドロイドは一見すると人間と見分けがつかない。そこで、「フォークト=カンプフ感情移入度測定法」という、質問に対する回答の際の毛細血管や瞳孔の動きを観測して共感度を測定し、人間かアンドロイドかを判別する。もしアンドロイドであれば、レーザー銃で破壊する。デッカードはアンドロイド破壊の仕事を警察からもらう。そのため、作品全体的に警察もののような印象を受ける。この「警察もの」「測定→殺害の流れ」の部分が槙島にパロディと言わせた部分であろう。

「フォークト=カンプフ感情移入度測定法」は、まず、電極などを被験者に取り付け、アナログメーターで数値を読み取るようなまどろっこしいものである。測定する暇もなく襲い掛かってくるようなアンドロイドや、そもそも測定に対して真剣でないアンドロイドが当然出てくる。それによってデッカードはアンドロイドの破壊に苦戦する。一方、「PSYCHO-PASS サイコパス」では、ドミネーターが犯罪係数の測定から標的の排除まで一緒に、しかも素早くこなしてしまう。おまけに、犯罪係数の測定は人工知能であるシビュラシステムが正確に行う。このドミネーターという洗礼されたデバイスは作品を象徴するものであり、「これが現代の近未来SFだ」と思わせた。ちなみに、1期3話において電波が届かない場所でドミネーターが使用できない*2シーンが出てくるが、これもまた現代的だなぁと思わせられた。

一九八四年

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)

 

ジョージ・オーウェル作の「一九八四年

ビッグブラザーという党に徹底的に支配された社会を描いたディストピアの名作。槙島が1期4話で読んでいた本である。「PSYCHO-PASS サイコパス」との直接的な関係は薄いが、「PSYCHO-PASS サイコパス」をディストピアにカテゴライズするなら、同じディストピアの代表作という意味で「一九八四年」を読むといい。「PSYCHO-PASS サイコパス」で描かれる社会は、犯罪係数を常にモニターされ、犯罪を犯さずとも潜在犯として捕えられることもある。これでも十分、自由やプライバシーが無いように思えるが、「一九八四年」で描かれる社会はそんな生易しいものではない。槙島が1期15話で、「PSYCHO-PASS サイコパス」の社会のことを「ジョージ・オーウェルが描く社会ほど支配的でない」と評している。ジョージ・オーウェルの描く、管理社会の極致を楽しむべし。

 すばらしい新世界

オルダス・ハクスリー作の「すばらしい新世界

人類は大きな戦争の後、平和と安定のために管理社会を構築した。人々は出生の段階から管理されており、ビンの中で生まれる。また、不快な気分を吹き飛ばすための薬物が支給される。そのため、人々は自らの生活に一切の不満を持たない。「すばらしい新世界」は「一九八四年」とともにディスピアの傑作と言われている。この作品には、「PSYCHO-PASS サイコパス」1期の登場人物である槙島聖護に大きな影響を与えているジョンという青年が登場する。「すばらしい新世界」では、徹底的に管理された安定的な文明社会と、原始的な生活を営む蛮人保存地区の2つの社会が存在する。蛮人保存地区に住んでいるジョンは、拾ったシェイクスピアの本を愛読しており、会話の中で引用することがある。この点が槙島聖護に似ている。ジョンは父親が文明社会にいることから、蛮人保存地区から文明社会へ移動してくるのだが、文明社会に馴染めない。蛮人保存地区へも戻れず、2つの社会に馴染めないジョンの行動が描かれていく。蛮人保存地区文明社会という2つの社会に馴染めなかったジョンと、シビュラシステム監視される一般人というどちらの立場にもなれなかった槙島聖護。また、上記で述べたように、本の内容を会話で引用するという点が、2人が似ているところである。上記のAmazonリンクに載せたハヤカワepi文庫の「すばらしい新世界〔新約版〕」のあとがきには、「最終的にジョンが辿る運命以外の選択肢を与えたのが「PSYCHO-PASS サイコパス」である」 というようなことが書かれている。

おわりに

PSYCHO-PASS サイコパス」をより楽しむためのSF小説を3冊紹介した。SF小説以外にも、「サイコパス 小説 引用」などと検索すれば、登場人物が引用した作品が出てくる。正直、私はSF小説以外は読んでいないので紹介できないというのが事実である。最後に、「PSYCHO-PASS サイコパス」との関連度は高くないが、オススメできる作品を紹介しておく。

 

ウィリアム・ギブスン作の「ニューロマンサー

映画「マトリックス」の元になった作品であり、「攻殻機動隊」にも影響を与えたと言われているサイバーパンクの代表的作品。作者のウィリアム・ギブスンは、「PSYCHO-PASS サイコパス」1期に登場するチェ・グソンが好きなSF作家である。

ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)

ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)

 

虚淵玄作の「鬼哭街

虚淵玄は、「PSYCHO-PASS サイコパス」1期と劇場版の、ストーリーと脚本に携わっている(wikipediaより)。「鬼哭街」のwikipediaには、虚淵玄が「脊髄の赴くままに書いた」と書いてある。上に載せた「ニューロマンサー」から影響を受けていると思われる。PSYCHO-PASS サイコパス」のストーリーに関わった人物が好き勝手に書いた作品という意味で楽しめる。

鬼哭街 (星海社文庫)

鬼哭街 (星海社文庫)

 

ウィリアム・ギブスン作の「ローム襲撃

ウィリアム・ギブスンの短編集である。最初に収録されている「記憶屋ジョニィ」の英語タイトルである「Johnny Mnemonic」は、「PSYCHO-PASS サイコパス」1期3話で金原の元に送り付けられたメモリーに書いてある英字と一致する。恐らく、チェ・グソンがこのメモリーを送り付けたと推測されるのだが、ギブスン好きの彼がメモリーにこの名前を書いたのだろう。「記憶屋ジョニィ」の内容を知っていれば、なぜこの名前を書いたのか分かって面白い。センスを感じる。

クローム襲撃 (ハヤカワ文庫SF)

クローム襲撃 (ハヤカワ文庫SF)

 

 

*1:1期が放送されたのは2012年

*2:ドミネーターはサイコパスの測定のためにシビュラシステムへデータを送信しなければならないため